月を見あげて 

佐伯一麦さんの著作で、ちょうど震災前後のものがあるのかな、と思っていたら、あったのだ。河北新報夕刊に毎週掲載されていたというエッセイである。

月齢を数えて、月を見上げて、文章が綴られる。(ただし、どういうわけか、昼間の月にはあまり触れられない。)
加えて、植物に対する描写が精緻だった。

月は巡り、時は経つ。津波もあり、亀も天に召される。ただ、生きてきた人々の足跡が化石のように残る。それは文学であったり、音楽であったり。

「すぐに役に立つ癒やしや希望を文学にもとめることに、私も抗したい。震災後、正義感から発せられる言葉ほど危ういものはない。」(142ページ)

文学はクスリでもないし、ブルドーザーでもない、ということなのだろう。

場合によっては作家さんのほうから読者に歩み寄るということもあろうけれど、その逆の機会もあるだろう。この一冊は、佐伯一麦さんのリズムに読者が乗って味わうものである。


月を見あげて (河北選書)

月を見あげて (河北選書)